「調査的感性術」

「フォレンジック・アーキテクチャー」
翻訳プロジェクト
中井のチュードア研究は、楽器や回路のようのな物質的証拠を組み合わせて、音楽パフォーマンスのありようを組み立て直すというアプローチから、アメリカやヨーロッパでは「フォレンジック・ミュージコロジー」とよく呼ばれています。そのこともあって、「フォレンジック・アーキテクチャー」という、主に建築の方法論を用いてアメリカにおける警察による黒人の殺害から、現在起こっているウクライナに対するロシアの侵略戦争にいたるまで、国家や権力による暴力の行使を批判的に調査してきたグループの活動にずっと関心を持ってきました。

Investigative Aesthetics(調査的感性術)は、このグループの活動から出てきた美学=感性論の新しい動向です。その中心にあるのは、エステティックスを「感知」の作用や能力と定義した上で、そのような感知行為を人間はもちろんのこと、人間以外の生物、そして建物やミサイルやいろいろなデジタル/アナログ・センサーや土壌などの人工物や自然物までもがそれぞれ行なっていることとして拡張したうえで、これらのセンサーの組み合わせによって国家権力が存在を否定しようとする出来事を再構築して事件として成立させるというアプローチです。

「フォレンジック・アーキテクチャー」の中心人物であるエヤル・ヴァイツマンが2021年に出版したこのアプローチのマニフェスト的な本を、ウクライナで現在起こっている戦争になかば促されるかたちで、日本語に訳す作業を行なっています。また同じヴァイツマンが2017年に出版した主著である「フォレンジック・アーキテクチャー」も合わせて訳しています。