コンサート
ヴァージニア大学大学院におけるヴァーチャル・レジデンシーの成果発表として、中井/No Collectiveと東京現音計画がヴァージニアの作曲家たちのZOOM音楽を演奏するコンサートを行ないます。時差を考慮して、日本時間の夜(ヴァージニア時間の朝)と日本時間の朝(ヴァージニア時間の夜)の二公演を行ないます。二枚組の絵画のようなコンサートになる仕掛けも考えているので、もし観れる人は両方お越しください。
中井が主催するパフォーマンス集団No Collectiveは2021年9月から22年6月にかけて、ヴァージニア大学大学院音楽学部作曲コースのレジデンシー・アンサンブルに招待されました。コロナ禍のためヴァーチャル・レジデンシーにならざるをえないことを受け、アンサンブルの楽器編成を聞かれたとき、ZOOMが楽器であると答えて、ヴァージニアの作曲家たちにZOOM音楽をいやおうなく作らせることにしました。ところが、作曲家のなかには非常に伝統的な趣きの人もいて、しつこく「本当の楽器編成」を教えてくれと聞かれたのです。
ちょうど同じころ、日本の現代音楽アンサンブルである東京現音計画から、「批評家」としてコンサートを企画してくれないかというオファーが来ました。そちらもコロナ禍のためオンライン開催になるかもしれないということを踏まえて、ZOOM音楽をテーマにすることにしました。そのため、ヴァージニア側から「本当の楽器編成」の質問がやまなかったとき、まず思いついたのは、東京現音計画と同じ編成(サックス、チューバ、ピアノ、パーカッション、エレクトロニクス)のコピーバンドを、各々の楽器が演奏できる知り合いを世界中から寄せ集めることで作り、その「東京現音計画もどき」をNo Collectiveだと称してヴァージニア側に作品を書かせ、面白いものができたら、そのまま現音計画のコンサートに持っていくというアイデアです。でもすこし考えているうちに、そのような面倒なことをせずとも、本物の東京現音計画をNo Collectiveとともに、ヴァーチャル・レジデンシーに連れて行けばいいことに気づきました。事情を話すと、ちょうど海外での活動機会を模索していたということで現音のメンバーたちが快く引き受けてくれたため、ヴァージニアと東京現音計画とNo Collectiveのコラボレーションがはじまることになりました。
そうなると問題は、曲を書くわけでもなく、演奏するわけでもない中井/No Collectiveが、このプロジェクトでいったい何をしているかです。ただし、曲を書くことと演奏すること以外にも、対応すべき大きな問題がふたつありました。まずは日本語を喋れないヴァージニアの作曲家たちと東京現音計画のメンバーのあいだでコミュニケーションがうまくとれない恐れがあったこと、そして伝統的な楽器の演奏者を入れたため、ZOOMを楽器とするという当初の計画がうやむやになってしまう恐れがあったことです。これらふたつの課題は、いずれも「媒介」に関わることでした。そのため、中井/No Collectiveはこのレジデンシーにおいて、「作曲家」でも「演奏者」でもなく(もちろん「批評家」でもなく)、一方では媒介の障壁(言語に関して)を乗り越える手助けをしつつ、他方では媒介の障壁(オンライン・コミュニケーション・ツールに関して)を絶えず思い起こさせる「消える媒介者(the vanishing mediator)」として振る舞うことにしました。離れた空間を媒介しながらも、滑らかなコミュニケーションを実現するために、その固有のバイアスが通常は視界から消えさりがちなZOOMという楽器に焦点を当てるプロジェクトには、それがぴったりの役割であるように思えたのです。